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おくすりのめたね

頭が痛い。愛用の頭痛薬が手に入らなくなってから二週間ほど経った。変だなぁ、とぼんやり思いながら日々を過ごしている。頭が痛い。

私は時々、妙な頭痛に悩まされている。

朝起きると、ぴりっとした刺激の後に頭の芯からずんとした痛みが漏れ出す。その痛みがぐるぐる脳を回っていく感覚が、たまらなく嫌だった。そんな時に頭痛薬を飲むと、すっと痛みが収まるのだ。

だから私は、ポーチの中の頭痛薬を切らさないようによく気を付けている。切れそうになったら放課後に買いに行くことにしていた。毎日発作があるわけじゃないけれど、一箱に十数錠しか入っていないからたまに切らしてしまいそうになる。

でも最近は、どこのドラッグストアに行っても「この頭痛薬は売れません」と書いてある。これはたいへんな死活問題だ。

そもそも第一類医薬品というのは、薬剤師のいないお店で売ることが禁止されている。薬剤師がきちんと説明をしてから販売しなければならないことになっている。だから、不完全なドラッグストアでは私が求める頭痛薬を売ることができないのだ。ルールの上では。

でも、立ち寄るたびに薬剤師出勤カレンダーが違う日程を示しているのに気付いてから、私は世界がおかしくなったのだと錯覚した。明日の午後に出勤と書いてあったはずなのに、次の日にはその予定が消えている。と思ったら、また次の日にはその予定が復活しているのだ。

私が行くたび、薬剤師はいつもお休みだった。

薬剤師が不足しているのかと思ったけど、全国で見ればむしろ余っているらしい。余っている人材をかき集めて、この街に全部収容してしまえばいいのに。

ポーチの中の頭痛薬は、昨日飲んだ分でもうなくなってしまった。明日の朝起きて頭痛が襲ってきたら、私にはもうどうしようもない。

「頭痛薬が欲しいの?」

教室でB子がそう切り出したのは、私が軽く額を押さえていたからだろう。

「そうなの。最近、薬剤師さんとタイミングが合わなくて」

「じゃあ、私のあげる」

B子が取り出した頭痛薬は、私が知っているのとは少し違った。

私がずっと飲んでいたのは、半分に割れるようにまっすぐ筋が入っている白いまん丸の錠剤だ。それがプラスチックのシートに一つずつ入っていて、振るとからからと小さな音がする。

一方、私の手の上に乗っている錠剤は、毒々しいほどの暗い緑色で、形も少しいびつだった。袋いっぱいに詰められた緑の錠剤は、振ったら中でぼろぼろと崩れてしまいそう。

「だいじょうぶ。ロキソプロフェンナトリウムも入ってるから」

私にはあんまり意味が分からなかった。何が入っていたって、ひどい頭痛が治ればそれでいい。

「はい。ジンジャーエール」

「ジュースで飲んでも平気かな?」

「大丈夫だよ。A子、ジンジャーエール好きでしょ?」

まぁ、そうだけど。B子が差し出したペットボトルを持ち上げて、白い光に透かしてみせる。

「少し、眠くなるかも」

「いいよ。もう先生も来ないし」

日常から少しずつモノが消えていっている。周りから少しずつ人がいなくなっている。

どうしてか、そういう時にB子は必ず私の喪失感に気付いてくれる。ジンジャーエールをくれたのもB子。寂しさを埋めてくれたのもB子。B子が何を失ったかは、私には分からない。

もうクラスにはB子しかいない。世界にもB子しかいない。私と、B子。白い床に、白い壁。どこで間違ったんだろう。頭が痛い。

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