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仮想物質やってみた

存在しない技術 Advent Calendar 2021

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概要

ビットコインを初めとする 暗号通貨 は、取引の正当性と価値を維持し続けるために大量の電力と多くのストレージを消費することから、今日まで環境負荷の観点から強い批判を受け続けている。そのため、環境負荷を抑えつつ非中央集権的なネットワークで円滑に資金を流通させる目的で、暗号通貨と既存の貴金属の利点を組み合わせた 仮想物質 の研究が進んでいる。本記事では、テストパラメータ上で仮想物質の錬成と転移およびマイニングを行い、メインパラメータ上でエアドロップを試すことで、仮想物質の可能性を示す。

背景

暗号通貨と貴金属

暗号通貨 は、強力な暗号を裏付けにして単なるデータ列が通貨として機能するよう設計されたデジタル資産システムである。特に、非中央集権的なネットワークで取引台帳( ブロックチェーン )の唯一性や正当性を保証するには、多くのコンピュータで大量の電力とストレージを消費し続ける必要があるため、環境負荷の観点で強い批判を受けている。

多くの暗号通貨は、金・銀・プラチナを初めとする貴金属のように埋蔵量が一定であり、新しく生産するのが難しくなるように設計されている。つまり、通貨の材料自身の希少性に依拠した価値を持っており、その類似点からビットコインは デジタルゴールド とも呼ばれている。これは、暗号通貨が貴金属と一定のレートで交換できることを保証されているという意味ではなく、価値の源泉が貴金属のそれと同様のメカニズムになっているということを示すものである。

このように、ほとんどの暗号通貨は単なるデータ列に唯一性や正当性を与えるために、多くのコンピューティングリソースとストレージスペースを消費している。当然、この欠点は暗号通貨がネットワーク上で取引を行いやすい電子的なデータ列であることと表裏一体となっており、暗号通貨の価値を担保するためのものでもある。

仮想物質と貴金属

ここまで述べたとおり、暗号通貨を貴金属と比較した際の利点は、第一にその流通性である。逆に言えば、貴金属を非中央集権的なネットワークで送受信することが容易になれば、リソースの大量消費によってのみ支えられる非効率的な暗号通貨を維持する必要はなくなる。

しかし、現実の物質である貴金属をネットワーク上で流通させるのは難しい。多くの場合、暗号通貨の取引所と同じような中央集権的なシステムで、非分散的な台帳のみに記録しながら取引を進めることになるだろう。これは、単にボラティリティに頼って短期的なトレードを繰り返す投資家にとってはあまり問題にはならないが、政治的迫害や様々な規制を逃れるためにこれらを通貨として使いたい人たちにとっては、大きな問題である。

貴金属を非中央集権的なネットワークに流通させるにはどうしたらよいか。この課題をスマートに解決するのが 仮想物質 である。仮想物質は空気中の水と二酸化炭素を仮想核融合することで錬成できる特殊な構造を持った物質であり、独自のパラメータから錬成することで他の仮想物質と厳密に区別することができる。いわば実体を持った仮想的な貴金属であり、 バーチャルゴールド と呼ばれることもある。

仮想物質とは

仮想物質は、前述の通り水と二酸化炭素の仮想核融合によって錬成することができる。本来、核融合には多くのエネルギーが必要で、貴金属の埋蔵量を保証する根拠の一つとなっている。しかし、数年前に発見されたトンネルブレイク効果によって、エネルギー準位を保ったまま仮想的な核融合を行うことで、安定した物質を得ることが可能になった。

仮想物質の大きな特徴は、 ヴェノナの遷移律 により、一度錬成した物質と同じパラメータを再度使用するのが非常に困難であるということである。これは、システム上の人工的な制約ではなく物理的な性質に基づいており、錬成時のパラメータを取得・再設定することさえ不可能とされている。これにより、第三者はもちろん、通貨発行者でさえ追加で仮想物質を発行することができず、仮想物質の流通量が一定であることを保証する根拠になっている。

仮想物質の有効性を支えるもう一つの特徴は、 仮想転移 が可能であるということである。仮想転移は仮想物質にのみ確認されている物理現象であり、いわゆるテレポーテーションを低遅延・低コストで実現できる(ただし、光の速度は超えられない)。つまり、取引を行いたい二者が仮想転移装置さえ持っていれば、即座に仮想物質を送受信できるようになる。そのため、これらの仮想物質をネットワーク上で流通させることで、暗号通貨の欠点を補いつつ従来の利点をそのまま享受できるのである。

仮想物質の錬成・転移・マイニング

今回は、家庭用の一体型仮想物質装置を利用して、テストパラメータ上で仮想物質の操作を行う。通常、錬成と転移は別の装置として実装されるのが一般的だが、ホビー向けの小さな装置ではほとんどが一体型となっている。なお、錬成とマイニングは同様の操作なので仮想物質錬成装置で行われることが多いものの、一部ではマイニングの効率を上げるために少量の錬成向けにチューニングしたコイルを搭載しているものもある。

仮想物質装置の全体像(AとBのラベルが貼られた2つ引き出しを備えた黒い台と、その上に設置されたプラズマを放つ球体)

仮想物質装置の下部(感電とレーザー光の危険を示す黒い辺で縁取られた黄色い三角形の注意表示、白子アイコンに赤い円と赤い斜め線が描かれた禁止表示、白地に黒い文字でAとBのラベルが貼られた2つの引き出し)

錬成

まずは、独自の仮想物質(ここでは「あまねコイン」と呼ぶ)を錬成する。

テストパラメータでの仮想物質の錬成は、水と二酸化炭素とおよそ1500Wほどの電力が必要である。錬成機能を呼び出すには、背面のファンクションスイッチを切り替えてから電源をオンにするか、専用アプリから起動することもできる。開発者ツールから内部的なパラメータ設定に介入することもできるが、前述の遷移律の通り、最終的なパラメータを操作することはできない。

仮想物質装置で仮想物質を錬成している動画

10分ほど待つとバーチャルスフィアが消灯するので、十分に冷めてから仮想物質を取り出す。

仮想物質装置で錬成したあまねコイン(仮)

テストパラメータで錬成できるのは、ほとんどこのような透明~半透明の仮想物質である。メインパラメータではもっと安定した金属様の仮想物質が錬成されるので、仮にテストパラメータ上の仮想物質を悪用しようとしても、受信した時点ですぐに区別することができる。

錬成したナゲット(塊)は大きさが揃っていないため、一定の質量に分割して流通させやすくするのが一般的である。今回は単なるテスト用なので、以降の操作はナゲットのまま進める。

転移

次に、錬成したあまねコインを転移する。

幸い、この装置にはトレイが2つ付いているので、AトレイからBトレイに向かって送信するだけで転移を体験できる。ファンクションスイッチからは宛先を設定できないので、必ず専用アプリから送信先を指定して実行する。今回は localhost でよい。インターネットのレイヤーで交換しているのは互いの身元を証明する鍵のような情報だけで、仮想物質自体をデータに変換しているわけではないことには注意すべきである。

仮想物質装置で引き出しAから引き出しBに仮想物質を転移している動画

転移にはあまり電力は必要ない(600Wで10秒程度)。自分から自分に送信しているだけなので見栄えがしないものの、手品のようにAトレイからBトレイに瞬間移動しているのが分かる。

仮想物質は、スマートコントラクトのように価値を移動するプログラムが組み込まれているわけではないので、転移を支払い手段として使っても、持ち逃げされたり偽物を渡されたりする可能性がある。もちろん、この点は現金や暗号通貨での決済と大きく変わらない。

マイニング

あまり実用的な利用法ではないが、テストパラメータほどの複雑性では、少量の仮想物質を繰り返し錬成することで同じパラメータの仮想物質を錬成できることがある。同じ仮想物質を錬成できたところであまり価値がないので、利用は実験的な用途に限られるものの、メインパラメータで錬成した仮想物質になぜ価値があるのかという根拠を実演することができる。

仮想物質におけるヴェノナの遷移律は、十分に複雑なパラメータ上でのみ成立する。パラメータの複雑さは、探索空間の拡大と試行のコストの両方を引き上げるからである。一回あたりの錬成量を減らせば試行回数は増やせるものの、仮に あたりくじ を引いても得られる仮想物質が少なくなる。逆に、大当たりを狙って大きな錬成を繰り返した場合は、一生かかっても夢を掴むのは難しいだろう。

メインパラメータにおける遷移律への攻撃は、俗に マイニング と呼ばれ、宝くじよりも難しく効率の悪い趣味として知られている。

仮想物質装置でマイニングした微量のあまねコイン

錬成と同様に1500Wで数時間にわたって挑戦してみたものの、最初のあまねコインと同じ物質はほんの少ししか生成できなかった。メインパラメータでは、この実験の数万倍の電力と 10150ほどの時間をかけて、やっと砂粒ほどの仮想物質が生成できるかもしれないというレベルになる。

仮想物質のエアドロップ

メインパラメータで新たな仮想物質を錬成するのは家庭用の装置と電力では難しいので、今回は安い既存コインのエアドロップを受け取って一連の実験を締めくくることとする。

今回は、いわゆる草コインである ナトシ・サカモト のエアドロップを試してみる。指定のリンクから仮想物質コミュニティSNSに登録するだけで、わずかながら仮想物質を得ることができるらしい。エアドロップの詳しい手順については、記事末尾のリンク集を確認のこと(この記事の公開時点では既に締め切っているかもしれない)。

仮想物質装置でエアドロップしたナトシ・サカモトの大きな結晶

直角に曲がりくねった独特の結晶構造と、青~黄色の金属光沢を示しているのが分かる。半金属の酸化皮膜に特徴的な虹色の光沢と似ているが、これは酸化しているわけではなく、仮想物質に埋め込まれたパラメータを保持する格子欠陥によるものである。メインパラメータ上の仮想物質は金属に似た性質を持っており、しばしばその特殊な構造によって独特の干渉色を示す。

今のところこの大きさで4.2円(3 natoshi)程度なので、今後の価値の上昇に期待が高まる。

ほとんどの仮想物質は、通貨として利用するために小さく分割されてしまうので、このように大きな塊を見る機会は少ない。一方で、大きく綺麗な結晶の仮想物質は美術品として流通することがある。美術品市場での利益をねらって綺麗な仮想物質を得る目的に錬成を繰り返すこともあり、こちらをマイニングと呼ぶこともあるが、普通はアート・フォージ(美術的錬成)と呼ばれる。アート・フォージは、本来のマイニングより成功率はかなり高いものの、運任せなのは基本的に同じである。

まとめ

仮想物質とは、以下のような特徴を持ち、暗号通貨と貴金属の利点を兼ね備えた新時代の決済手段である。

  • 水と二酸化炭素から錬成できる環境にやさしい物質である。
  • 低遅延・低コストでテレポーテーションできる性質を持っている。
  • 複雑なパラメータによって偽造防止と埋蔵量を保証している。

リンク集

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